記憶力

2006年3月21日
 いつか自分の中の矛盾は言葉となり、羽ばたいて行く、声にならない声をだしながら。

 あの日あの時通った道。あれ以来通らなかった道。無駄に記憶力の良い頭が覚えていた。あの場所を見た時、あの想いを、切なさを、そっと引出しを開けたように戻ってきた。

 悲しいわけじゃない、辛いわけじゃない、ただどうしようもなく泣きたくて、どうしもなく切なかっただけ。何となく分かっていた。自分のこの頭の記憶力の良さを。普段歩かない場所だから、記憶の上書きされる事なく綺麗なままで保存されて、めったに行けない所だから、もう行かないでおこうと。いつかが来る時まで行かないでおこうと。

 なんの運命のイタヅラか、行ってしまった。行かなければならなくなってしまった。そして楽しい一時を過ごしてきた。帰りそのみちを、あの時以来行かなかったその道を。もしかしたら、思い出すこともないのかもと想っていた。もう大丈夫だろう、僕は。そんなことすら想っていた。その想いは儚く散った。

 ねぇ、なんで生きてるの?僕は。また、そんなことを想いだす。無駄と分かっているのに。なんだかんだで、それでも僕は強く生きることを選ぶのに。立ち止まって蹲り、また、悩んで、ギリギリのとこで、頑張って、目が覚めて、気持ち悪いといいながらも歩き出す。

 この想いは消える。引き出しにしまわれて。この道を歩くという鍵をあの場所に置いて。また、いつか僕を立ち止まらせるように。そっと鍵は、つぎの機会まで眠りにつく。

 僕じゃない。僕じゃない。そう・・・
 僕じゃない、誰かにその鍵を持って欲しい。
 そんな願いを想いながら、その地を後にした。

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