黒猫

2003年10月21日
 日が落ちた雨の中、人込みの中を歩いていた。

 誰も知らない人並み。相手が俺を知らなければ俺も相手を知らない。

 己の希薄さに空しさを感じて、存在の意味が分からなくて、戸惑いつづけて。

 少しでも違うことをしたくて、己の存在があることを知らせたくて、傘もささずに濡れて歩く。

 ただ、濡れて。

 たどり着いた先は駅だった。

 都会の駅。誰もが忙しそうに歩いていく。立ち止まってる僕など見ずに、何かに取り付かれたように、歩いている。

 笑ってる人もいれば、気難しそうに歩いてる人もいれば、、、、俺には分からないさ。

 そんな時、遠くの道を小さな影が横切った。

 目の悪い僕には小さな影としか認識できなかったもの。

 認識できるまでに近づくと猫がいた。

 輪郭はハッキリしない僕の目でもやせ細って見えるネコ。家族なのだろうか、親らしきネコが2匹、子猫が2匹。

 みな真っ黒だった。

 親ネコらしきネコは少しだけ俺を見て俺を相手にしなかった。

 そして忙しそうにその道を駆けるスーツ姿の人々。

 それらの姿に警戒しながら、猫たちはそこにいた。

 どんな風に人の目に映るのだろう?

 食うにも困って、いろんな物に怯えて、ひっそり寂しそうに生きてるように見えるのだろうか?

 足音がするたびに逃げる猫。

 時には警戒したり。

 雨に打たれ体を振るわせたり。

 そんな姿を見て貴方は何を想う?

 そんな風に成りたくないと想うのだろうか。

 都会の片隅でひっそり生きるように成りたくないと想うのだろうか?

 何も想わないのだろうか。

 人々はネコの前を通り過ぎていく。

 おれはネコを見つづける。

 そしてネコ達は都会の闇に消えていった。

 そうなんだ。

 ネコの家族達はどう想われようと、そこにある大切なものを守れればいいとおもっているのだろう。

 おれが何を見て何を想ったかなんて関係ない。

 ただ守りたいものを守るために。どう想われようが関係なく生きているのだろう。

 守りたい家族と共に。

 俺は?俺は?

 おれは何を守りたいと想って生きれば、人からどう想われようが、どう想われなかろうが生きていけるのだろう?

 分からなくて、苦しくて。

 そう、苦しい。

 苦しい。

 <苦しいことはそれが大切だから>

 ふと、昔聞いたた言葉を思い出した。

 そこに大切なものがあるから譲れないものがあるから苦しいと。

 なら其れを求めればいい。

 俺は求めよう。

 ココ居る意味を。ココに在る意味を。

 たとえ人から見て低落者と見えてもいい。

 馬鹿と見られてもいい。

 求めなければ苦しいのだから。

 大切なのだから。

 そう、答えを探すことが答えだって今はいい。

 そう想った。

 そして傘をさす。

 そして歩き始める。

 たとえ絶望が答えとしても。

 生きてる証を求めて。

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